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エッセー

ポンプの思い出


高橋 弘(たかはし ひろし)

東北大学大学院 工学研究科
 地球工学専攻 助教授

1.はじめに

 

 私がポンプと直接的な関わりを持つようになったのは、今から21年前のことである。当時、私は東北大学工学部資源工学科(現 地球工学科)の4年生であり、その年の4月に研究室に配属になった。私が配属された研究室では、研究室が一丸となって「管路による固体粒子の水力輸送」に関する研究を行っていた。したがって、実験室には数多くのポンプが並んでおり、部屋中配管だらけであった。当然、私自身もポンプのお世話になり、いろいろな経験をした。ここでは、主としてトラブルにまつわる話を述べてみたいと思う。

 

2.第7回水力輸送国際会議

 

 私が研究室に配属された1980年10月に、第7回水力輸送国際会議が東北大学工学部で開催された。現在では、国際化の波が至る所に押し寄せ、国際会議は決して珍しいものではなくなったが、当時、国際会議の開催は珍しいことであり、しかも1研究室で全ての雑務をこなすというのは極めて異例であった。研究室に配属されると同時に、国際会議のためのデモ用大型パイプラインの組み立てにかり出された。2~5インチの4種類のパイプラインを組み上げたわけだが、今思うと、素人集団が5インチのパイプラインをよく組み上げられたものだと感じる。最後にポンプを据え付けたが、その際、モータとの連結やポンプの回転方向のチェックなどポンプに関する基本中の基本事項を学んだ。全てが組み上がった後、試運転を行ったが、5インチ管から清水がタンクへ吐出される光景は、当時の私には圧巻であった。

 

3.卒業研修時のトラブル

 

 卒論のテーマとして与えられた課題は、管路輸送の再始動に関する基礎的研究であり、一種の流動層のようなテーマであった。国際会議が成功裡に終了した後、本格的に卒論に取りかかったが、実験装置の組み立てが終了し、実験を始めたのは12月に入ってからであった。その後、順調にデータを取得していた時、年末に記録的な大雪に見舞われた。大雪のため電線が切れ、停電になった。当然、ポンプは動かない。ポンプさえ動けば、計測は電気無しでも何とか行うことができた。しかし、ポンプが動かないことには何もできない。 午後2時頃、なすすべがなく研究室の机で途方に暮れていた時、当時、研究室の教授であった故川島俊夫先生が部屋に来られ、下宿に帰るように言われた。まさにこの時、ポンプのトラブルは全てを停止させてしまうことを、身をもって体験した。

 

4.修士研修時のトラブル

 

 大学院に進学してから私が取り組んだテーマは、管内における固体粒子の挙動を理論的・実験的に解析し、流れの圧力損失の推定を行うというものであった。そこで、再び実験装置を組み立て、実験を行ったが、卒論の一件もあるので、ポンプにはかなり気を使った。卒論の時は、スラリーをポンプに通すことは無かったが、管内における粒子群の挙動を観察するためには、連続して固体粒子(ガラスビーズ)を流送する必要があった。そのため、タンク内に清水と固体粒子の両方を入れ、ポンプにより固体と清水の混合体を吸い込み、管路に供給する方法を採用した。ポンプとしては、インペラの回転による渦で混合体を流送するタイプのスラリーポンプを使用した。装置が組み上がった後、毎日実験を行い、冬場には必ず水抜きをしてポンプが破損しないように気をつけ、常にポンプの振動や音にも気を配りながらデータを取り続け、もう少しで実験が終了するという時、突然、ポンプから大きな音がした。ポンプを見るとケーシングに穴が開き、水がすごい勢いで吹き出ていた。仕方なくポンプを停止させ、ケーシングを外して内側を見ると、ケーシングの内側が綺麗に磨耗し、最も薄くなった部分に穴が開いていた。スラリー輸送における磨耗は大きな問題であるという程度の知識はあったが、実験室レベルの運転時間でケーシングに穴が開くとは予想もしていなかった。新しいケーシングを注文し、納品されるまで、またしても実験不能の状態になったが、磨耗の大きさに驚いたことを鮮明に記憶している。

 

5.博士研修時のトラブル

 

 博士課程に進学した時、修士研修で導き出した粒子群の挙動に関するモデルが、直径の大きい管路でも適用可能かどうか知りたく、4年時に研究室で組み上げた上述の大型装置を初めて使用した。実験に必要なガラスビーズの量を試算し、大量のガラスビーズを購入してもらったが、非常に高価なので紛失しないよう気をつけるように言われた。そこで、4年生に手伝ってもらい、大型のタンクに清水を満たし、その中にガラスビーズを投入した。大型実験装置に組み込まれているポンプは、私が修士研修で使用したスラリーポンプと同じ会社製で、吐出量は大幅に異なるが、同じタイプのポンプであったため、流送実験はうまく行くと信じて疑わなかった。モータのスイッチを入れた瞬間にガラスビーズが攪拌される大きな音がしたが、それは修士の時の実験でも同じであったので特に気にせず、ガラスビーズが流れてくるのを待っていた。しかし、ガラスビーズは一向に流送されず、不安になってポンプを停止し、サクションパイプを外してみたら、ポンプの中でガラスビーズが粉々に砕けていた。2、3分の流送実験で10数万円のガラスビーズが粉々になってしまった事実は、極めてショックであった。このことを故川島先生にお伝えすると、インペラとケーシングにゴムライニングを施したポンプを購入すると言われ、選定理由書を作成するため、ポンプのカタログを集めるように指示された。またしても実験が数ヶ月延期されるというトラブルに遭遇したわけである。

 

6.最近の出来事

 

 教官になってからしばらくは水力輸送に関する研究を手がけたが、大学院重点化をにらんだ学科の改編にともない、研究テーマを開発機械・建設機械の自動化・知能化技術に関する研究に変え、現在に至っている。ポンプを扱う機会もめっきりと減ったが、助教授に昇格して製図の授業を担当するようになってから、再びポンプとの付き合いが始まった。課題の1つとして歯車ポンプを与え、それを分解させて、組立図と部品図を書かせている。担当して最初の年、図面を書いている学生の間を歩き回っている時、一人の学生が質問してきた。「これって、ポンプなんですか? どうやって動くんですか?」使用目的も動作も分からずにただ機械的に書いていただけの学生が大半であったことを知り、頭をハンマーで殴られたような気がした。以来、製図の授業の始めに、歯車ポンプの構造と使い方を簡単に講義するようにしている。

7.おわりに

 本文中でも書いたが、現在は次世代地殻マシーニング技術の確立を目指して、開発機械・建設機械の知能化要素技術に関する研究を行っている。そのため、ポンプに直接関わる機会が少なくなったが、製図の授業では歯車ポンプを教え、また縁あって最近ではポンプ修繕に関する委員会の委員長も仰せつかった。久々にポンプの勉強をさせて頂き、いい刺激になった。また別の縁で除雪機械に関する検討委員会にも出席させて頂いているが、除雪機械の通年活用に関する検討会では、揚程・容量はさほど期待できないが、除雪機械を一種のポンプとして利用できるのではという話が出ていると聞いている。これからも、まだまだポンプとはお付き合いしていくことになりそうである。関係各位のご指導・ご鞭撻をお願い申し上げる次第である。

 


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